2020年10月2日夕方、信じられないようなお知らせが飛び込んできた。
ホンダが2021年シーズンをもって、F1へのパワーユニットサプライヤーとしての参戦を終了することを決定したことのお知らせだ。全くもってして信じられないお知らせに、頭が真っ白になった。
「FIA フォーミュラ・ワン世界選手権への参戦終了について」というタイトルのリリースを読むと、確かにホンダはF1から撤退する。いや、撤退とかそんな中途半端な物ではなく、”参戦終了”という決定的な言葉を使っている。また、リリースを読む限りF1パワーユニット開発に使っていたリソースを「2050年カーボンニュートラルの実現」の為に投入するとも書かれている。もう、完全にF1には戻らない、決別宣言であると私は理解した。
八郷社長のスピーチでとても気になった点がある。
そして、レッドブル・レーシングとはトップチームとして勝てる体制の下、「優勝」という明確な目標を定め、強いパートナーシップを築いてきた結果、高い競争力を発揮することができています。両チームとの強固なパートナーシップと高い競争力を得た結果、昨シーズンは3勝、今シーズンも現時点で2勝を挙げることができています。大きな目標としてきた優勝を実現できたことに対し、レッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリの両チームには、改めて、感謝したいと思います。また、参戦決定以来、さまざまなサポートをいただいたFIA、フォーミュラ・ワンの皆さま、関係者の方々のご支援に御礼を申し上げます。そして、何よりも熱いご声援をいただいている多くのファンの皆さまに感謝いたします。本当にありがとうございます。
FIA フォーミュラ・ワン世界選手権への参戦終了について
「優勝」が明確な目標? 優勝が実現できた? 何を言っているのだろう。多くのファンは優勝だけではなくチャンピオンを期待していたし、当然ホンダもそれを目指していると思っていた。
F1では、優勝という目標を達成でき、一定の成果を得ることができました。
一定の成果、、、そんな物はどこにもない。一モータースポーツファンとして、ホンダファンとして、ここまでの結果を成果とはさすがに認めることはできない。
ファンの皆さまのご期待に応えるべく、今シーズンの残り7戦。そして、2021年シーズンに向けては、よりパフォーマンスを高めた新しいパワーユニットも投入し、レッドブル・レーシング、スクーデリア・アルファタウリとともに、さらなる勝利を目指して最後まで全力で戦い抜きます。
どうして、チャンピオンを目指すとハッキリ言うことができないのか、、、2020年はともかく、2021年にチャンピオンを獲得すると言うことができないのか。ホンダという企業を応援していたファンとしては、何よりもがっかりしてしまった。
一方、ホンダという企業の視点に立てば、COVID-19の影響がその決断を早めてしまったことは十分あったとは言え、参戦終了自体検討していたことも事実だろう。数百億円を超えるような投資に見合う効果がF1参戦によって生まれるのか、シビアに見続けてきたのだと思う。F1というブランドに資金を投入し続けることでは、ホンダは生き残ることはできない。F1でチャンピオンを取り、得られるブランド力、それを捨ててでも進むべき道があると判断したのだろう。企業としてそう判断したのが全てであり、10月5日の株価の終値は発表前に比べ2.58%上昇した。
ホンダがF1に参戦しているからこそホンダ車に乗る、まさに私は典型的なF1ブランドによってホンダの車に乗っていた。しかし、今現在車は所有していない。自宅や会社近辺にあるシェアカーで十分事足りてしまうし、年間で支払う費用も明らかに安い。そう、ホンダという企業が変わってしまったのは、自分のようなユーザーの変化の積み重ねによるところも多いだろう。もちろん、ホンダ車を乗り続けているモータースポーツファンがいることも事実だが、逆に私のように車を所有しないモータースポーツファンもまたいるだろう。時代は驚くほど変わっている。
それにしてもタイミングが悪すぎる。マクラーレンとの暗黒の3年間を経て、トロロッソのおかげでギリギリF1参戦継続が実現し、そして昨年からはレッドブルと着実に前に進んできた。昨年は3勝、今シーズン10戦を終え2勝。残り7戦でどこまで勝利数を伸ばすことができるか分からないが、さらに前進できると期待していた。また、F1直下のF2にはホンダ期待の若手角田裕毅が参戦し、現在ランキング3位に付けており、スーパーライセンスの獲得からの日本人F1ドライバーが久しぶりに実現するかもしれない、そんな日本のモータースポーツファンにとっては期待が高まっていたタイミングだ。やはり、タイミングが悪すぎる、、、。
ただ、一つ気になることはF1参戦終了が2021年であることだ。なぜ、1年半近く前にこのアナウンスをしたのか、その理由はなんなのか。答えは一つ、なにがなんでも2021年にチャンピオンを獲得しなければならない、ホンダのF1に関わる全ての人がその使命を背負うことになったのだ。後がないとはまさにこのこのこと、この追い込まれた状況でチャンピオンを獲得し、そしてF1を去る。これは私の期待が1500%込められた想いでもあるが、ホンダは最後の最後まであきらめないと信じたい。
フルコンストラクターとしていた2008年、ホンダはその年限りでF1を撤退したが翌2009年、ホンダの残したチームであるブラウンGP F1チームはなんとチャンピオンを獲得してしまう。そう、1年あればできる、そう確信しているのかもしれない。
アイルトン・セナがこの世を去ったとき、モータースポーツジャーナリストの故今宮純さんは「セナはいませんが、F1は続いていくわけです」とコメントしていた。たぶん、今宮さんはホンダ参戦終了のニュースを知ったとき、同じようなコメントを残すだろう。そう、F1は続いていく。
レッドブルとアルファタウリはどこのパワーユニットを使うことになるのか。喧嘩別れしたルノーか、それともメルセデス、いやフェラーリか。個人的な見解としては、自社パワーユニットによる参戦の可能性があるのではと考えている。ホンダはF1から去るが、ヨーロッパにいる多くのスタッフや設備は宙に浮くことになる。それを、ホンダから譲り受け、レッドブルブランドでPUの製造し、F1への参戦を継続する。もちろんレッドブルにとってはリスクも負担も莫大な物になるが、このチームならそのくらいのことをしてもおかしくないと考えている。
最後に、F1に最も近い角田選手。できることはとにかくポイントを稼ぎランキング上位に食い込みスーパーライセンスの発給条件を満たすこと。言われなくても分かっているだろうが、とにかく目の前のレースに集中してもらいたい。来年、F1参戦が叶えば、日本のモータースポーツファンとして今後もF1に注目せざるを得なくなる。ホンダが参戦終了し、終わりになってしまう、そんな未来は見たくない。希望をつないでくれ、角田裕毅! 鈴鹿サーキットで君が代を聴く日を心待ちにしている。